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“話し方”で想いを伝えよう

今回のお相手

1976 東京生まれ 1999 株式会社堀口硝子へ入社 二代目秀石(須田富雄、江東区無形文化財)に師事 2008 三代秀石を継承 株式会社堀口硝子から独立し、堀口切子を創業 2012 堀口切子を株式会社堀口切子に改組 日本伝統工芸士(江戸切子)に認定 2015 江戸川区松江に工場移転 White Base 日本伝統工芸士 (江戸切子) 江戸切子協同組合 理事 日本ガラス工芸学会 会員

作品一覧

切子グラス

グラス(タイトル不明)

グラス(しずく)

そば猪口(よろけ縞)

グラス(縦糸)

切子黒

切子(青緑赤)

“話し方”で想いを伝えよう

株式会社KEE'Sの代表を務める野村絵理奈さん。ご自身の経験を元に、話し方・コミュニケーション・スピーチ技術の他、好感をもたれる立ち居振る舞いや、魅力的な表情の作り方などをレクチャーされています。ミス・ユニバース・ジャパンのスピーチ・レッスン公認サプライヤーとして、日本代表のトレーニングをし、世界に送り出したことでも話題に。「コミュニケーションで日本を変えたい」という野村さんに、仕事にかける思い、“話し方”の魅力について語っていただきました。

千差万別の“話し方”個性を伸ばす



――こちら(KEE'S)で行なわれている、「話し方やコミュニケーションの支援」とは。



堀口徹氏:
企業、個人それぞれのお客様を対象におこなっています。企業研修の場合は、プレゼンテーションや営業トーク、コミュニケーションマナーなどをレッスンします。個人のお客様の場合は、多岐に渡ります。ビジネスに関することで来られる方もいらっしゃいますし、中には「人と接するのが苦手」とか「人前で話す時に、いつも失敗してしまう」という人もいらっしゃいます。そういった一人ひとりの様々な悩みに沿うように、レッスンやアドバイスをさせていただいています。

――今年で、設立から10年を迎えます。



堀口徹氏:
この10年は、あっという間でした。講師研修は、必ず私がすることになっています。「なぜこの言葉を使って、こういうことが書いてあるのかというと、生徒さんにはこう思ってほしいから」というように、ページの一言一句について、新しい講師に説明しなければいけないと、私自身が思っているからです。そういった「KEE’Sの想い」を大切にしてやってきました。ここの生徒さんの中には、話し方に苦手意識を持っていて、「自分はダメだ」と思って来ている人も多いです。でも私は、基本的には、“ダメな話し方”や“下手な話し方”というものはないと考えています。だから先生には「外見と同じく、これはあなたの良さ。個性です」という風に指導してもらっています。

――個性を否定せずに伸ばしていくのですね。



堀口徹氏:
ええ。でもそういったことも、実は生徒さんから教わってきたのです。最初は私も、多くのアナウンススクールや話し方教室がやるように「声は大きく」とか、「滑舌はよく」ということもやりましたし、型にはめて、上手な話し方を目指そうとしました。でも、話し方の魅力というのは、別のところにあるというのが、生徒さんを通してわかったのです。口下手な人こそ、すごく間のとり方が良かったり、真剣に人に接していたり、人の話を聞いていたりして……、だからその“口下手”という部分を否定せずにそれを伸ばせるようにレクチャーするようになりました。自信のなかった生徒さんと、「こういう風にしたら、もっとその良さがみんなに伝わるかもしれない」と話し合うなど、二人三脚でやっていきます。うちでは先生と生徒ではなく、トレーナーということになっています。それぞれの個性がストレートに伝わるように良い方向に伸ばす、発揮させるというのが、我々の役割ではないかと考えています。我々の役割は教えることではなく、調整することなんです。

自分の殻をやぶるきっかけを



――野村さんは、もともと話すのは得意だったのでしょうか。



堀口徹氏:
私はけっこう人見知りで、人前に立つのが苦手な方だと自分では思います。私の5歳の子どもは、幼稚園のころの私にそっくりで……(笑)、人見知りであいさつが苦手なので、その姿を見て心配にもなるくらいです。実は小学校の時に、諸事情で入学が1週間遅れたのですが、それが人見知りを克服する大きなきっかけになりました。親の保護下から、自分で学校に通わなくてはいけないという、組織や大人への第一歩を踏み出す時期。そこで自分だけが出遅れるというのが、すごくプレッシャーで「ここでみんなに溶け込まなければ、私は一生みんなから仲良くしてもらえない」という危機感から、自分なりに色々と考えました。

そこで思いついたのは「教室のとびらを開けて、大きな声であいさつをしよう」ということ。先生も「クラスになじめるかな」と心配していたそうですが、それを実行した日に「絵理奈ちゃんは、みんなと仲良くなれました」と母に電話してくれました。母もすごく嬉しそうで、その母の姿を見て、「大きな声であいさつをしたり、みんなと仲良くすることは、自分だけではなく、お母さんも先生も楽しいし、みんなにとって良いことじゃないか」と感じたのです。そこからはどんどん活発になっていきました。

――ハードルを越えたんですね。



堀口徹氏:
話し方は、一つの殻を破ると早いですよ。ここで話し方を身に付けて、「自分のビジネスやプライベートがすごく変わった」とおっしゃるのは、自分の殻を破って、可能性を広げられたからだと思います。私の場合は、その殻を破ることができたのが、運よく小学校の1年生でしたが、どこかで自分の殻を破るきっかけが必要だと思います。


留学先で痛感したコミュニケーションの重要性



――活発になった野村さんはその後……。



堀口徹氏:
言葉、特に英語がすごく好きだったので、英語科のある高校に入りました。職業を意識し始めた頃には、語学を生かした仕事をしたいと思っていました。大学時代にはシアトルに留学するのですが、言葉ではすごく苦労をしました。留学先では、危険な目にも何回か遭いました。ある日、通学バスの路線を間違えてしまったのですが、親切な運転手さんが送ってくれるとことになりました。ほっとしたのも束の間、おろされた場所に地元のおばさん二人が走ってきて、「女の子一人でこの通りに入ったら、絶対に駄目!」と、ものすごい剣幕で怒られたのです。実は、ホームステイ先とは全然違う、危険な場所で降ろされていたことを知りました。その後は、ホストファミリーが私のために、もう一度一緒に通学路をチェックしてくれたり、そういう人たちの支えがあって、なんとかやっていくことができました。そういった経験から、「海外に行って、日本から来る学生さんをサポートするような仕事がしたい」と思うようになったのです。

――そこからアナウンサーへと進まれたのは。



堀口徹氏:
留学中に「しゃべっていても面白くない」と言われたことがありました(笑)。なぜかと聞いてみたら、「反論しないから。自分がこうだと思ったことは、イエスかノーかを、はっきりとロジカルに伝えるようにしないと、会話が面白くない」と。外国人の中で自己主張ができないことが、コンプレックスでした。色々と悩んだ結果、「その原因は英語ではなく、話し方なのではないか」という結論に達したのです。



「話し方を根本的になおさないと、私は海外で仕事はできない」ということで、まず話し方教室を探すことから始めました。NHKの初期のアナウンサーであったI先生という「アナウンサーが人生の全てです」というような、すごく厳しい先生に出会いました。最初は「なんで発声をやらなくてはいけないのか」などと思っていましたが、次第に「発声は全てに通じる」ということがわかってきて、面白くなっていきました。そうやっているうちに、アナウンサー試験にも受かることができたのです。どの放送局を受けに行っても、I先生のところで学ばれたのですね。喋り方ですぐにわかりますよ」と言われるくらい、個性の強い先生でした。

アナウンサーになってから教えてもらったことや、自分の経験により培ってきたものを、一般の方にも伝えたいという思いで始めたのが、2005年でした。10年前の日本には、あがり症の人のための話し方教室、アナウンサーになりたい人のためのプロ養成所しかなくて、その中間の人たちのための場所はありませんでした。

――そういった場所を必要としている人は、多いのかもしれませんね。



堀口徹氏:
子どもの時に話し方を習う機会がなく、苦労する人も多いのかもしれません。それに日本には、“阿吽(あうん)の呼吸”という独特のものもありますが、その感覚が時には「はっきり物を言い、相手に的確に伝える」ということの妨げにもなります。「これからの社会では必要とされる場所だ」と、アナウンサーの仲間二人と、会社の立ち上げに踏みきりました。でも、最初の頃は、パンフレットを持って会社訪問に行っても、まず「なんで話し方なの?」という説明をするところから始めないといけませんでした。

“話し方”で、本当に人生が変わるの??



――周りがまだ、話し方の重要性を感じていなかったのでしょうか。



堀口徹氏:
当時は、外資系の会社のトップのスピーチなどに触れる機会も少なく、スピーチやプレゼンの重要性を感じて下さる企業も、今ほどではありませんでした。「アナウンサーになるわけでもないのに、なんで発音をやるの?」と言われたこともあります。お給料でためた貯金が、どんどんなくなっていって、「缶ジュースを買うお金もないし、別の仕事をしようかな」と母に相談したことを、今でも覚えています。

その時母は、「じゃあお白湯を飲めばいいじゃない。もやしが一番安いから、もやしを炒めて食べたら?」と……(笑)。母の励まし(?)のおかげもあり、地道に続けていくうちに「異業種交流などの場でスピーチをさせられるから、一回、やってみようかな」と言ってくださる方も出てきました。最初に仕事を受けてくれた社長さんとは、今でもお付き合いがあります。その方は「人生が変わったと思う。発声なんかやって、どうするんだって思っていたけど、一生懸命やることによって、全てがうまくいきはじめた」とおっしゃいました。

――実際にやってみて、手ごたえがあったと。



堀口徹氏:
私は「だから言ったじゃないですか」と(笑)。「新人から始めて、これから管理職になる候補生にもやってほしい」ということで、その対象はどんどん広がっていくことになりました。私たちも最初は、スピーチだけを教えていましたが、営業の方には営業トーク、新人の方には印象アップできるようなマナーも含めて、そして管理職は、リーダーシップを取れるようなモチベーションの研修といったように、色々とコンテンツを増やしながら、ビジネスに合うようにアレンジして、自分たちで作り上げてきました。



本によって、生まれた出会い



――その想いが本にもまとめられています。



堀口徹氏:
世界一の美女になる話し方』という最初の本を書いた頃は、ミスユニバースブームで、関連本もたくさん出ていました。うちもミス・ユニバース・ジャパンのスピーチトレーナーだったんですよ。それまで話し方が「美」と繋がるというのは、イメージとしてはなかったようで、声をかけていただいたポプラ社さんからは、「なんでミスユニバースなのか?」と聞かれました。「たとえミスユニバースでも、『あざーす』とか言われたらびっくりでしょ。話し方は内面がそのまま表れるものなので、アウトプットするツールとして、すごく重要なんですよ」という風に私が説明すると、「それ、面白いから、本を書きませんか」と言われました。「話し方に対する認識を変えるためにも、女性が手にとってくれるような、話し方の本を書きたいな」ということで、本を書くことにしたのです。

たくさんの人が、私の本を買ってくださって、講演まで来ようと思ってくださることに、すごく驚きました。ブログなどで「毎日、こうやって実践しています」と書かれているのを目にしたこともあります。『口ベタでも90分で人生が変わりだす話し方』には、ここの生徒さんの実話を書いているのですが、「自分も全く同じで、電車の中で読んでいると、涙が出てしまって困りました」という方もいらっしゃいました。多くの方と触れ合えるこのお仕事が楽しくてしょうがありません。けれども、私が「ここ」と思い描いたものは、まだ達成できていないなと感じている部分もあります。

日本の良さを、世界に発信する



――思い描かれている目標とは。



堀口徹氏:
日本人全員がきちんとコミュニケーションがとれて、海外に行っても、文化や宗教、人種や言語が違う人にも、印象良く、自分の思ったことをわかりやすく伝えられるということ。日本の文化は、本当に素晴らしいと私は思っていて、この日本の文化の素晴らしさを、そのまま海外の人に伝えたいのです。“阿吽(あうん)の呼吸”もそうですし、おもてなしの精神や茶の湯など、日本の文化、精神文化などは、海外から見ればすごいものなのかもしれません。でもそれが、きちんと伝わらなければ意味がない。外国人にとっては、主張しなければ、ないものと同じ。感じとってはもらえません。だからそういったことを、国際社会で発信できるようにしたいのです。

――訪日する観光客も増加の一途を辿っていますね。



堀口徹氏:
東京オリンピックのための、おもてなしのプロジェクトも企業と一緒にやろうということで、今、少しずつ進んでいます。日本は、インフラなどのハード面はすごく立派です。海外からのお客様は、技術や建物などにもビックリすると思います。でも、それだけをもって“おもてなし”が完結するかというと、そうではありませんよね。外国の人が迷っていたら声をかけるとか、目が合ったらあいさつができるかといった部分も重要です。それは英語力ではなくて、コミュニケーション。そういう風に、一歩前に出ることができる心があるかどうか。そういった部分に関しては、日本人はまだ苦手なのではないかと私は考えています。

――ソフトな豊かさを広げて行きたい、と。



堀口徹氏:
ものは豊かでも、日本は自殺率が高いですよね。実は、誰にも相談せずに亡くなる人が、その大半を占めるそうです。ということは、もし誰かに話すことができたら、そういう結末を避けることができるかもしれない。一日中パソコンと向かい合っている人たちもいますし、そうやって話すことを忘れていくと、相談もできなくなったりするのかもしれません。「こんなことを、他の人に言っていいものなのか」と思ったりする部分も日本人にはあって、どんどん自分の中にためていくのです。そういったコミュニケーション不足が、孤独に繋がっていく。だからこそ、国全体が、コミュニケーションをとることの楽しさを感じてほしいと私は思います。海外旅行に行くと、目が合ったらにこっとしてあいさつもするし、エレベーターでもスモールトークをしますよね。「なんか楽しい」とか「ちょっと笑顔になれた」ということは、人にとって大事なことなのです。

今、 “あいさつ運動”をやっています。ボランティアで企業にうかがって、入り口に立って「おはようございます」と言うだけ。『5000人を変えた!話し方の新・習慣77』にも書いたように、「ソ」のトーンで、笑顔で、目を合わせるという、この3つのルールを守って、3日間、あいさつを続けます。すると最終日には、みんなが笑顔で「おはよう」と言うように変わってきます。「今まで、無言で会社に入って仕事をしていたのが、みんなでしゃべったりして、笑顔になる。社内コミュニケーションが円滑になるし、モチベーションもアップするから、業績アップに繋がる」と言ってくださった社長さんもいます。

働く女性に、元気を届ける



――多方面から、コミュニケーションの変化を促されていますね。



堀口徹氏:
2015年は、ウェブで全国の人に、話し方の授業を受けてもらえるようにと思っています。北海道や沖縄からわざわざ来てくれる方もいるのですが、それだとすごくお金がかかってしまって、申し訳ないと常々思っています。遠方にいらっしゃる人にもウェブで授業を受けていただけるようにしようと考えました。海外の色々な人ともやりとりをして、レッスンをしています。それから女性のために、もっと発信していけたらと考えています。二人目の子どもを昨年出産し、少し考えが変わってきたのです。女性が育児をしながら仕事で活躍するということが、女性のためにも、社会の幸せのためにも、重要なことだと思うようになりました。FacebookのCOO(最高執行責任者)である、シェリル・サンドバーグの『LEAN IN』という本を読んで、考えるところもありましたね。

私はこの本を、3~4回、繰り返し読んでいますが、彼女がその地位に登りつめるまで、女性として働く母として、いかに苦労してきたか。世の中の女性が、どうして社会的な上位にいられないのかというと、社会の仕組みや制度や考え方もあるけれども、女性の中にその根本的な原因があるという風に、この本では書かれています。そういうところは変えないといけないなと私も思います。

本には“モチベーションを保つための本”というものもあります。つまり、本から栄養を心に取り入れるということ。私も母親なのでわかりますが、「仕事と育児、どっちも中途半端なんじゃないか」と、悩んだりするかもしれません。子育てをする上での責任という意味でも、「これでいいのかな」などと、働く女性は考えたりもします。そういう時に、こういう本を読むと、「この方向性でいいんだ」とか、「みんな、そうなんだ」などと思うことができるのです。私も働く母の一員として、そういった指針となるような本をこれから書きたいと思っています。

(聞き手:徳永てっぺい)

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