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対話する“臨人医”として

今回のお相手

プロフィール 1980年 東京都生まれ 祖父・父ともに銀師(しろがねし)の家に生まれる。 父 宗照氏の高度な技術を間近に見て育ち、小学生の頃には銀師になることを意識し始めていた。その思いは自身の成長とともに大きくなり、高校卒業を機に、「父のような銀師になりたい」と、宗照氏に弟子入りを志願。銀師としての一歩を踏み出した。そして2011年には伝統工芸士の認定を受け、さらなる高みを目指し修練の日々を送っている。

作品一覧


緩和医療ができること



――患者さんへの想いが大津先生を動かしているように感じます。



上川宗達氏:
患者さんに「悔いのない時間を過ごしてもらうこと」がとても大切だと今は感じています。症状を和らげて、その後どう過ごして頂くかが重要だと思うのです。全ての患者さんが「やるべきことはやった」と、後顧の憂いなく逝けるというわけではありません。がんも最近は症状緩和の技術が進んで、かなり遅くまで良い状態でいられるものの、やりたいことや言いたいことを言えずに最期の時間を過ごすことになってしまう例は少なくありません。本人も心残りだし、家族も後々まで悲しむということになります。もっと話し合ってほしいという想いは、近年ますます強くなってきています。

――『死ぬときに後悔すること25』には、そうした想いが込められています。



上川宗達氏:
みなさんやはり後悔はしたくないと思われています。後悔しないために大事なのは決断です。「生き死に」の問題は、できるだけ考えたくないという風潮がありますが、やはり避けては通れない問題でもありますよね。できれば健康なうちから少しは考えておくのが良いし、今もし残り時間が相当限られているとしたら何を自分は本当に望むのだろうかという問いを行うことは、今ある「生」を豊かに過ごすことにつながるのではないかと思っています。

私が最初に本を出した2006年当時、緩和医療に対する認識は、今とは比較にならないものでした。浮かない顔をされた患者さんにわけを聞くと「みんなに勧められてホスピスに来たけど、何をされるのか不安です」とか「ここは終末期のうば捨て山のようなところだと聞いた」という返事が返ってきたこともあります。そうじゃないということを、じっくり説明する中で、もっと広く社会に、緩和医療について発信しなければいけないと思うようになりました。最初の本『死学 安らかな終末を、緩和医療のすすめ』はそうして出来た本でした。

より良く生きるための死生観



――緩和医療に対する認識は、どんどん変わってきました。



上川宗達氏:
これからは、“価値観に沿う医療”がますます重要になってくると思います。
可能な限り長生きするために治療をできるだけ受けたいという患者さんもいれば、短くても苦痛だけは取ってもらって好きに生きたいという患者さんもいます。これからの医療では、話を聴く中で、その人が何を望んでいるのかということを、明らかにしていくことがますます重要になるでしょう。そして私たち医療者も、患者さんとの対話を通して、患者さんの価値観を理解し、それに沿った医療やケアを提供するようになっています。

これからの老年期医療や慢性期医療、がん医療においては、ますます医療者と患者さんがコミュニケーションを深めながら、協働作業としての要素が重要となってくるでしょう。そのための一助となるべく、現場のことをわかりやすく本にすることも私のライフワークです。そして私自身は、一臨人医として患者さんと接して、痛い苦しい、あるいは心の苦しみや様々な悩みに困っている方、そして重い病気で死と直面している方々を支えていきたいと思っています。

「死を考えるということは生を考えること」だと思っています。そして一人で考えるだけではなくて、ご家族ともそれを話し合い、お互いがどういう価値観を持っていて、何を希望しているのか、それをよく理解しておくことはいざという時にも役立つものと思います。私の本や講演が、みなさん一人ひとりに考えてもらうきっかけや、大切な方と話し合う材料になればいい。そのためにも、より詳しくわかりやすい言葉でこれからも伝え続けていきたいと思います。


(聞き手:沖中幸太郎)

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