妥協なき挑戦 山口光峯堂の誇り
――三代目が硯作りの世界へ入ったのは。
三代目:
私も同じように、当初は継ぐ気はありませんでした。気がなかったというより、覚悟がなかったのだと思います。父が働く硯業界の厳しさも身近感じていましたので。最初は歯科技工士として働いていましたが、父の体調が思わしくない時期があり、戻って手伝うようになったのがきっかけでした。ただ「いわれたことをいわれた通りにやるのが正解というのは、つまらない」とは前々から思っていましたので、新たな試みが出来るこの仕事を今は転職だと思ってやっています。
勉強のために、他の産地を訪れたとき、たまたま目にした「那智黒光峯堂」と書かれたうちの硯を見つけました。それを見て、気持ちを新たにさせられたこともあります。自分が納得し、使い手も満足していただけるものづくり、そのためには絶対に妥協はできません。それは山口光峯堂の誇りとして受け継いだものだと思っています。
本物を残していく使命 生涯現役の職人魂
――山口光峯堂のものづくりが受け継がれています。
山口光峯氏:
「人間、死ぬまで勉強」です。私どもは那智黒については絶対の自信がありますが、硯という分野はまだまだ広い。常に勉強です。いま、好評を頂いている「曼荼羅の径(まんだらのみち)」や、「石のささやき」の硯も、そうした勉強、お話をさせて頂く中から着想を得て生まれました。
真摯に向き合ってこそ、本当のものづくりと言えます。そして本当のものづくりからしか、本物は生まれません。私の父は94歳まで現役でしたが、私も生涯現役で、ものづくりを学び続けながら、これからも、皆様に喜んで頂ける本物を作り続けて参りたいと思っています。
(取材・文 沖中幸太郎)