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先人に近づき 自分の色で挑戦する

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江戸末期から受け継がれてきた伝統技に、新たなセンスを融合させた作品を製作する東京銀器伝統工芸士、銀師(しろがねし)の上川宗達さん。 彫金技術を駆使した模様に金を入れることで、華やかな桜を表現した、銀製 打込象嵌花器「夜桜」は、第7回全日本金銀創作展で受賞するなど、内外から高い評価を得ています。“音”や“感覚”で作り上げられる銀器の世界。その魅力と想いを伺ってきました。銀製 打込象嵌花器「夜桜」は、第7回全日本金銀創作展で受賞するなど、内外から高い評価を得ています。“音”や“感覚”で作り上げられる銀器の世界。その魅力と想いを伺ってきました。

Items

グラス

壺

ヤカン

伝統の“音”を日常に



上川宗達B氏:

日伸貴金属のある台東区三筋は、御徒町から蔵前のあいだを指す「徒蔵(カチクラ)」と言われていて、その昔、職人たちは物流の中心である日本橋に納めに行く前に、この付近の道を通っていました。それでこの地域には伝統工芸に関連した色々な工房があるのです。ここで、父であり師匠の上川宗照と三男一女の江戸っ子一家が同じ工房(日伸貴金属)で仕事をしています。江戸から東京に脈々と受け継がれてきた技巧を基に、新しいセンスを融合させた次世代の伝統工芸を目指し、日々の研鑽に努めています。

伝統工芸一家で育った私は、幼い頃からこの世界に進むと決めていました。跡を継ぐように言われたことは一度もありませんでしたが、働く父の背中を見て自然に憧れを抱くようになったのです。私は四人兄弟の末っ子でしたが、母は常に父の素晴らしさを説いてくれていました。そうした母の言葉にも大きな影響を受けたと思います。家の一階が仕事場で、二階部分に家族が住んでいましたが、父が銀を叩いたり削ったりする音が日常でした。その日常の延長で始まりました。



この世界に入ったばかりの頃は、銀をたたくよりも、まず道具づくりからでした。それぞれの作品に応じて、道具を作っていきます。しばらく道具づくりを覚えながら、徐々にまわりをまねながら作品づくりを始めました。最初は自分が身につけるアクセサリーに挑戦することにしました。それを見た友人から製作を依頼され、徐々に人に感謝される“ものづくり”の喜びを覚えていきました。

伝統工芸一家の挑戦



上川宗達B氏:
東京銀器は、昔、分業制でした。まず板を作る人がいて。形を作る「へらしぼり屋さん」に、轆轤(ろくろ)を使い、削ったり板を抜いたりする「ひきもの屋さん」。それから「みがく屋さん」と、溶接したりする「まとめ屋さん」など、たくさんの職人さんがいました。ある時、父から「自分のところで、全部できるようにしよう。時間をかければ何とかなる。職人さんのところへ行って、見て覚えてこい。わからなかったら、何度でも見てこい」と言われました。人数減少に伴う納期の遅れの発生。その結果、仕事がなくなる、ということを見越しての決断だったと思います。

真ん中の兄は、へらしぼり屋さんのところへ行っていましたし、私も削る刃物を作る工程や、木型作りを見て学びました。組合内の青年部も、今は10人くらいしかいませんし、その中でも私は一番若手。あと10年経つと、無くなってしまう技術もあるかもしれません。そういった技術をいかに吸収し、継承していくか。

金春流(こんぱるりゅう)の山井綱雄先生は「僕は一瞬の中で演技する。でも上川さんのところはそれがずっと続くものだ」とおっしゃっていました。常に挑戦し続けながら、後の世にも恥ずかしくないものを作らなくてはいけません。


持ち主の“生きた証し”が刻まれる銀器の魅力



上川宗達B氏:
ある時「お世話になった人の還暦祝いに、ビールコップをプレゼントしたい」とお客様から依頼を受けました。なぜ銀器なのか伺ったところ「黒くなるから。その時に、私たちのことを思い出してほしい」と。“いぶし銀”という言葉があるように、銀は使っているうちに味わいが出てきます。もちろん磨いて元の輝きを取り戻すことも出来ますが、あえて使われた歴史をそのままにしておくことで “生きた証し”が刻まれます。銀器と一緒に歩んでいく。それが魅力のひとつだと思います。



また実際に使ってみて、その味や香りの違いを楽しめるのも魅力です。味香り戦略研究所では、「ワインやシャンパンなどは、銀のイオンによって成分が反応して味が変わる」という結果が出ています。また銀は金属の中で、一番冷媒効果があります。ガラスを1とすると、銅が380倍ぐらい、銀の場合は420倍も冷媒効果があるのです。また部分的に薄くすることによって、口当たりや飲みやすさにも変化を加えたりと、銀器ならではの特徴をいかした楽しみ方が出来きます。

手間を惜しまず使い手に尽くす 



上川宗達B氏:
私は「期限の中で、手間を惜しまず使い手に尽くす」ことを一番に、銀器を作っています。何かの企画展に出品するような“作品”の場合は、ある程度時間をかけられますが、本業であるものづくりは、限られた時間の中でお客様に届けることが出来て初めて成立します。日々技術を高めながら、よりお客様に喜んでもらえる作品づくりを心がけています。

また、作品には精神状態が如実に表れてきますので、常に平静を保たなくてはいけません。興奮していれば、強く叩きすぎてしまうし、落ち込んでいれば、弱くなってしまう。厚みを均等にするために、一周、同じようにたたかないといけません。最初の数回で、「こういう風にたたく」というイメージを決めて、あとは無心で取り組みます。

長く使ってほしいので、“壊れにくさ”や“直しやすさ”も考えながら作っています。全国から修理依頼を頂きますが、へこんだ箇所は厚みを残すなどして、品物の機能面を損なわないように注意を払います。東日本大震災の時も、仏壇の花入れなどの修理依頼がありました。底が狭いものは倒れやすいので、仏壇の中の限られたスペースを活用して、倒れにくくしてお返しするなど、工夫を続けています。

先人に近づき 自分の色で挑戦する



上川宗達B氏:
私たち伝統工芸に携わる職人にとって、昔に作られた作品こそが教科書です。けれども、その見方は自分の成長・変化に伴い変わっていきます。「同じだ」と思ってしまうと、それ以上のものは作ることができません。「どこが違うのか」を見ながら、工夫を重ねていかなければなりません。そうして先人に「近づいていく」。その上で、自分の色を出しながら良い作品を作っていく。そしてそれを次世代へと伝える、その繰り返しだと思います。

その繰り返しの中で、新たに出来ることを考え挑戦したいですね。今は、陶器や漆器を見ても、「銀で作ったら、どういう風になるのか」などと考えるようになりました。伝統を継承しながらも、さらに可能性を広げて、銀器の魅力を多くの人に感じてほしい。そして、その素晴らしさを国内だけではなく、世界の人にも感じてもらいたいと思っています。


(取材・文 沖中幸太郎)

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